「国立大学の授業料が値上がりすると聞いたけど、うちの子の大学は対象?」「いつから、いくら上がるの?」——そんな疑問を持つ保護者・受験生は多いはずです。
2025年に東京大学が20年ぶりの授業料値上げを断行したことを機に、国立大学の学費引き上げが相次いでいます。2026年度からも複数の大学が値上げを実施し、今や85校中10校が標準額を上回る授業料を徴収しています。
この記事では、値上げの仕組み・大学別の実施時期・金額・対策を一気に解説します。
① 標準額(年53万5,800円)から最大20%増の年64万2,960円まで各大学が独自に値上げできる。② 東大は2025年度から、名工大・埼玉大・電通大・山口大は2026年度から値上げ。③ 世帯年収に応じた授業料免除・奨学金制度が拡充されており、低所得世帯への影響は軽減されつつある。
国立大学の授業料値上げとは?まず知っておくべき基本
国立大学の授業料には、文部科学省が定める「標準額」と、大学が独自に設定できる「上限額」があります。この仕組みを理解することが、値上げ問題を正しく把握する第一歩です。
授業料の「標準額」と「上限額」の仕組み
国立大学の授業料は「国立大学等の授業料その他の費用に関する省令」によって規定されており、現在の標準額は年53万5,800円です。この金額は2005年度から変わっていません。
ただし、省令の規定により各大学は標準額の120%を上限として独自に引き上げることができます。計算すると、上限額は年64万2,960円となり、標準額との差は年10万7,160円です。
入学金について
入学金の標準額は28万2,000円(2002年以降据え置き)。授業料と同様に120%(約33万8,400円)を上限に引き上げが可能ですが、現時点では大半の大学が入学金は標準額のまま据え置いています。
値上げは各大学の独自判断
重要なのは、国が一律で授業料を引き上げるわけではない点です。各国立大学がそれぞれの経営判断で値上げを実施するかどうかを決定します。そのため、同じ国立大学でも値上げする大学としない大学が混在している状況です。
2026年度時点で85校の国立大学のうち標準額を上回る授業料を設定しているのは10校。大多数の大学は依然として標準額(年53万5,800円)を維持しています。
国立大学の授業料が値上げされる3つの理由
なぜ今、相次いで値上げが行われているのでしょうか。背景には大学経営を圧迫する複数の要因があります。
① 運営費交付金が約1,600億円削減された
国立大学が国から受け取る「運営費交付金」は、2004年度から2024年度の20年間で約1,600億円(13%)削減されました。2004年度の1兆2,415億円から、2024年度には1兆784億円まで減少しています。物価上昇を考慮した実質削減率は18〜20%とも試算されており、大学の「基礎体力」が大幅に損なわれています。
2024年6月には国立大学協会が「もう限界です」と題した緊急声明を発表し、財務状況の危機的悪化と運営費交付金の増額を訴えました。
② 光熱費・物価高騰で支出が急増した
大学の支出は人件費が約4割、物件費(光熱費・設備費等)が約5割を占めます。近年の物価高騰・エネルギー価格上昇により物件費が急増。さらにコロナ禍で抑制されていた各種活動が再開されたことで、支出全体が膨らんでいます。
東大総長の説明
東京大学の藤井輝夫総長は値上げの主な理由として「光熱費などの諸費用の高騰、人件費の増大の中で、学生の学習環境を維持する安定的な費用を確保するため」と説明しています。
③ 教育環境の維持と国際競争力強化が急務
デジタルトランスフォーメーション(DX)対応や研究設備の刷新、ティーチングアシスタント(TA)の待遇改善、留学支援の拡充など、教育・研究の質を維持・向上させるための投資も急務となっています。東大は授業料値上げによる増収(約13億5千万円/年)を、こうした教育環境の整備に充てる方針を示しています。
【大学別一覧】授業料値上げはいつから?2018〜2026年まとめ
国立大学の授業料値上げは2018年に東京工業大学が初めて実施して以来、徐々に拡大しています。大学別の実施時期を時系列で確認しましょう。
値上げ済み大学(2018〜2025年度)
| 実施年度 | 大学名 | 値上げ後の授業料(年額) | 対象 |
|---|---|---|---|
| 2018年度 | 東京工業大学 | 64万2,960円 | 当該年度以降の入学生 |
| 2019年度 | 東京藝術大学 | 64万2,960円 | 当該年度以降の入学生 |
| 2020年度 | 千葉大学 | 64万2,960円 | 当該年度以降の入学生 |
| 2020年度 | 一橋大学 | 64万2,960円 | 当該年度以降の入学生 |
| 2020年度 | 東京医科歯科大学 | 64万2,960円 | 当該年度以降の入学生 |
| 2024年度 | 東京農工大学 | 64万2,960円 | 当該年度以降の入学生 |
| 2025年度 | 東京大学(学部) | 64万2,960円 | 学部:2025年度入学生から/修士:2029年度から |
2026年度から値上げする大学
2026年度からは新たに4大学が授業料を値上げし、いずれも上限額(年64万2,960円)に引き上げます。
| 大学名 | 値上げ後(年額) | 備考 |
|---|---|---|
| 名古屋工業大学 | 64万2,960円 | 2026年度入学者から |
| 埼玉大学 | 64万2,960円 | 2026年度入学者から(大学院は2027年度から) |
| 電気通信大学 | 64万2,960円 | 学士課程2026年度・博士前期は2030年度から |
| 山口大学 | 64万2,960円 | 2026年度入学者から |
注意
値上げ後の授業料が適用されるのは該当年度以降の新入学生が原則です。在学中の学生には適用されない大学がほとんどですが、大学ごとに対応が異なります。志望大学の公式発表を必ず確認してください。
今後の動向
2026年度時点で85校中10校が値上げを実施または予定しています。河合塾の調査(2025年12月)では、国立大学の半数以上が「標準額そのものの引き上げ」に賛成寄りの姿勢を示しており、今後も値上げの波が広がる可能性があります。一方、高校側では賛否が拮抗しており、教育機会の均等をめぐる議論は続いています。
参考:国立と私立の4年間学費の差
私立大学(文系)の4年間学費は平均約410万円(文科省調査)。国立大学標準額の約242万円と比べると約168万円の差があります。値上げで国立が上限額になっても約284万円で、私立文系との差は依然120万円以上。国立大学は値上がり後も学費の安さを維持しています。
値上げ後の授業料はいくら?金額と4年間のコストを解説
「年10万円増」と聞いてもピンとこないかもしれません。4年間の総額で見ると、その影響は無視できません。
現行の標準額(年53万5,800円)
2005年度から20年以上にわたって据え置かれてきた標準額は年53万5,800円。入学金28万2,000円を加えた初年度納入金は81万7,800円、4年間の合計授業料は214万3,200円(入学金込みで約242万5,200円)です。
上限額(年64万2,960円)=約11万円増
上限額(標準額の120%)は年64万2,960円。入学金(標準額のまま28万2,000円と仮定)を加えた初年度納入金は92万4,960円となります。
学部4年間で比較すると
| 授業料(4年分) | 入学金 | 4年間合計 | |
|---|---|---|---|
| 標準額(値上げなし) | 214万3,200円 | 28万2,000円 | 242万5,200円 |
| 上限額(値上げ後) | 257万1,840円 | 28万2,000円 | 285万3,840円 |
| 差額(4年間) | +42万8,640円 | 0円 | +42万8,640円 |
4年間で見ると約43万円の負担増となります。奨学金(貸与型)で賄う場合、この差額分が将来の返済額に上乗せされることになります。
学費値上げに備える経済的支援・奨学金制度
授業料が値上がりしても、所得の低い家庭が進学をあきらめないよう、経済的支援制度も拡充されています。
授業料免除・減額制度(東大の対応例)
東京大学は授業料値上げと同時に2025年度から免除制度を拡充しました。
| 世帯年収の目安 | 免除内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 〜600万円以下 | 授業料 全額免除 | 2025年度より対象を400万円以下から拡大 |
| 600万〜900万円 | 授業料 4分の1免除 | 地方出身者(首都圏4都県以外)が対象 |
注意
上記は東京大学の例です。免除基準・条件は大学ごとに異なります。志望大学の学生支援窓口で必ず確認してください。
給付型奨学金(JASSO)の活用
日本学生支援機構(JASSO)の給付型奨学金(返済不要)と授業料減免がセットで受けられる「修学支援新制度」も重要な選択肢です。
- 住民税非課税世帯〜年収約460万円の世帯が対象
- 2025年度(令和7年度)から多子世帯(3人以上の子)は所得制限なしで授業料減免が受けられるよう拡充
- 給付型奨学金と授業料・入学金の減免が組み合わせて支給される
大学独自の支援制度
各国立大学には独自の奨学金・緊急支援制度も設けられています。値上げを実施する大学の多くは、値上げと同時に支援制度の拡充を打ち出しています。入学前・入学後いずれも大学の学生支援課へ問い合わせることをおすすめします。
値上げへの反応と今後の見通し
学生の反対運動と社会的議論
2024年に東京大学が値上げを検討していることがメディアに報じられると、学生有志による「東大学費値上げ反対緊急アクション」が結成され、約2万7,500筆の署名を集めました。広島大学でも1万7,000筆の署名が提出されるなど、反対運動は全国に波及しました。
2025年2月には116の高等教育機関の学生有志が衆議院で院内集会を開き、①運営費交付金の増額、②授業料免除の拡充、③物価高に対する予算措置を政府に求める要望書を提出しています。
標準額そのものの引き上げ議論
現在の値上げは各大学による「標準額の120%まで」の範囲内ですが、標準額そのものを引き上げる議論も浮上しています。慶應義塾大学塾長(2024年当時)が「国立大学の授業料は150万円程度に引き上げるべき」と提言したことも話題になりました。一方で、教育の機会均等を定めた憲法や国際人権規約に基づく高等教育の漸進的無償化を求める立場からの批判も根強くあります。
受験生・家庭が今すぐできること
- 志望大学の公式サイトで授業料を確認する:各大学のウェブサイトや学生支援ページに最新情報が掲載されています
- 奨学金・支援制度を早めに調べる:JASSO給付型奨学金の予約採用は高校3年生から可能です
- 4年間の総費用でシミュレーションする:授業料だけでなく、生活費・教材費・交通費なども含めて試算しておきましょう
- 家庭の収入・資産状況を整理する:免除判定に使われる「家計基準」を事前に確認しておくと、申請準備がスムーズです
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標準額(年53万5,800円)から、最大で20%増の年64万2,960円まで引き上げが可能です。値上げ幅は年約10万7,160円、4年間では約42万8,640円の負担増となります。ただし実際の値上げ額は大学ごとに異なり、標準額の120%(上限)まで引き上げる大学もあれば、据え置く大学もあります。
大学・課程によって異なります。東京大学は学部生が2025年度入学生から、修士課程は2029年度から適用されます。名古屋工業大学・埼玉大学・電気通信大学・山口大学は2026年度入学生から適用予定です。基本的に「値上げを決定した年度以降の新入学生」に適用され、在学中の学生は原則として従来の授業料が適用されます。
主な理由は3つです。①2004年から2024年の20年間で運営費交付金が約1,600億円(13%)削減されたこと、②物価高騰・光熱費上昇による支出増加、③教育研究環境の維持・向上と国際競争力強化のための財源確保、です。国立大学協会は2024年6月に「もう限界です」と緊急声明を発表しており、大学経営の苦しい現状が値上げの背景にあります。
はい。主な制度として①各大学の授業料免除・減額制度(東大の例では年収600万円以下で全額免除)、②JASSO給付型奨学金と授業料減免がセットの「修学支援新制度」(年収約460万円以下の世帯が対象)、③2025年度から多子世帯(3人以上の子ども)は所得制限なしで授業料減免が受けられるよう拡充、があります。詳細は志望大学や日本学生支援機構(JASSO)のウェブサイトを確認してください。
いいえ。2026年度時点で国立大学85校のうち値上げを実施・予定しているのは10校です。値上げするかどうかは各大学の独自判断であり、現状では大多数の大学が標準額(年53万5,800円)を維持しています。ただし今後、値上げが広がる可能性もあるため、志望大学の動向を継続的に確認することをおすすめします。
基本的には在学中の学生には適用されません。東京大学の場合、2025年度以降の新入学生から改定授業料が適用され、2024年度以前に入学した在学生は従来の授業料(年53万5,800円)が適用されます。ただし大学・課程によって対応が異なる場合があるため、在学中の大学の公式発表を必ず確認してください。
まとめ:国立大学の授業料値上げ
- ✓標準額は年53万5,800円(2005年以降据え置き)で、各大学は最大120%(年64万2,960円)まで引き上げ可能
- ✓2025年度に東京大学が20年ぶりに値上げ。2026年度からは名工大・埼玉大・電通大・山口大が続く
- ✓4年間の授業料差額は約43万円。奨学金返済の負担増にもつながる
- ✓運営費交付金の20年で約1,600億円削減・光熱費高騰が主な値上げ理由
- ✓年収600万円以下の家庭への全額免除や多子世帯支援(2025年度拡充)など、経済的支援制度も整備されている
- ✓85校中10校が値上げ(2026年度時点)。大多数の国立大学はまだ標準額を維持
