厚生年金の「値上げ」は2種類ある

「厚生年金値上げ」というワードには、まったく異なる2つの意味が混在しています。混同するとニュースの内容を誤解してしまうため、最初に整理しておきましょう。

種類 対象 内容
①受給額の引き上げ 年金をもらっている高齢者 物価・賃金の変動に応じて毎年改定。2026年度は+2.0%。
②保険料の引き上げ 現役の会社員・役員(高所得者) 標準報酬月額の上限引き上げにより2027年9月〜段階的に増加。本記事はこちらを解説。

①受給額の値上げ(もらう側)

毎年4月に行われる年金額改定のことです。2026年度は前年比2.0%増額され、厚生年金(モデル世帯)は月額23万4,657円になっています。すでに年金を受給している方や、将来の受給額に関心がある方が気にするトピックです。

②保険料の値上げ(払う側)― 本記事のテーマ

こちらは現役の会社員・役員の給料から引かれる厚生年金保険料が増えるという話です。2025年6月に成立した年金制度改正法により、標準報酬月額の上限が段階的に引き上げられます。収入の高い方ほど影響を受けます。

💡 国民年金保険料の値上げとは別の話

フリーランス・自営業者が支払う国民年金保険料の値上げとも別の制度改正です。本記事は会社員・役員に適用される厚生年金保険料の話に絞って解説します。

なぜ厚生年金保険料が上がるのか?制度改正の背景

現行制度の課題:高所得者ほど負担率が低い

厚生年金保険料は「標準報酬月額 × 18.3%」で計算されます(厚生労働省)。ただし現行制度では、標準報酬月額に上限(65万円=第32等級)が設けられており、月収が65万円を超えても保険料はそれ以上増えません。

これにより、実質的な保険料負担率に不公平が生じています。

報酬月額(例) 適用される標準報酬月額 本人負担額/月 実質負担率
60万円 60万円(第31等級) 54,900円 9.15%
65万円 65万円(第32等級) 59,475円 9.15%
75万円 65万円(上限で頭打ち) 59,475円 7.93%(低い)
100万円 65万円(上限で頭打ち) 59,475円 5.95%(より低い)

※ 保険料率18.3%、労使折半(本人負担9.15%)で計算。出典:厚生労働省

報酬月額が65万円の人も100万円の人も、保険料は同じ59,475円。高所得者ほど実質負担率が低くなるという逆転現象が起きていました。

改正の目的:負担の公平化と給付水準の維持

厚生労働省は改正の目的を以下の2点としています。

  • 高所得層の保険料負担を収入に応じた形に近づける(不公平の是正)
  • 現役時代の収入に見合った年金を将来受け取れるようにする(給付の適正化)

なお、「上限65万円」という基準はもともと全被保険者の標準報酬月額の平均の約2倍として設定されたものです。賃金水準が上昇した現在、この上限を見直す必要が生じた形です。

引き上げのスケジュールと対象者

3段階の引き上げスケジュール(2027〜2029年)

標準報酬月額の上限は、一度に引き上げるのではなく、3年かけて段階的に引き上げられます。

適用時期 標準報酬月額の上限 等級
〜2027年8月(現行) 65万円 第32等級
2027年9月〜 68万円(33等級を新設) 第33等級
2028年9月〜 71万円(34等級を新設) 第34等級
2029年9月〜 75万円(35等級を新設) 第35等級

※ 出典:厚生労働省「厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて」(2025年6月成立の年金制度改正法による)

⚠ 2026年度(令和8年度)は変更なし

現時点(2026年5月)では保険料率・上限ともに変更はありません。最初の引き上げは2027年9月からです。2027年4〜6月の報酬をもとに標準報酬月額が算定され、同年9月から新等級が適用されます。

対象者の条件:報酬月額66.5万円以上

今回の改正で継続的に影響を受けるのは、賞与を除く報酬月額が66.5万円以上の被保険者(会社員・役員)です。年収に換算すると賞与を除く年収で約798万円以上が目安になります。厚生労働省の試算では、会社員男女計の約7%(約303万人)が65万円の上限に該当するとされています。

💡 報酬月額の「報酬」とは

報酬月額には基本給だけでなく、役職手当・通勤手当・住宅手当なども含まれます。賞与(ボーナス)は別扱いで「標準賞与額」として計算されます。今回の改正は報酬月額分の上限引き上げのみで、賞与の上限は変更なしです。

自分が対象かどうか確認する方法

「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で自分の標準報酬月額を確認できます。現在の標準報酬月額が第32等級(65万円)に該当している場合は、2027年9月以降に保険料が増加します。

また、毎年4〜6月の給与明細に記載の報酬月額(各種手当含む)が63.5万円以上であれば、現在の標準報酬月額の上限(65万円)に達しています。

保険料はいくら増える?年収別シミュレーション

保険料の計算式

厚生年金保険料は以下の式で計算されます。

月額保険料(労使合計)= 標準報酬月額 × 18.3%本人負担 = 労使折半なので × 9.15%

保険料率は2017年9月以降18.3%で固定されています。今回の改正で変わるのは料率ではなく、計算に使う標準報酬月額の上限です。

段階別の保険料増加額(本人負担分)

標準報酬月額が上限(65万円)に達している方の保険料変化は、以下のとおりです。

適用時期 標準報酬月額 本人負担/月 現行比(増加額/月)
〜2027年8月(現行) 65万円 59,475円
2027年9月〜 68万円 62,220円 +約2,700円
2028年9月〜 71万円 64,965円 +約5,500円
2029年9月〜 75万円 68,625円 +約9,100円

※ 出典:厚生労働省(2025年6月成立の年金制度改正法に基づく公式試算)。端数処理により若干の差が生じる場合があります。

最終段階(2029年9月〜)の保険料増加額は月約9,100円、年間では約109,200円の増加となります。企業(事業主)も同額を負担します。

企業(会社)負担はどう変わる?

厚生年金保険料は労使折半のため、企業も同額の負担増になります。

対象者数 企業の月額増加 企業の年間増加
1人 約9,100円 約109,200円
5人 約45,500円 約546,000円
10人 約91,000円 約1,092,000円

※ 最終段階(2029年9月〜)で月収75万円以上の対象者が全員の場合の概算。

⚠ 人事担当者の方へ

2027年4〜6月の報酬を基に7月提出の算定基礎届で等級が見直され、9月から新等級が適用されます。対象者のリストアップと給与計算システムの設定変更は2026〜2027年中に進めることを推奨します。

実質の手取り減少額は?社会保険料控除の効果

社会保険料控除とは

厚生年金保険料などの社会保険料は、全額が所得控除(社会保険料控除)の対象です。保険料が増えると控除額も増えるため、所得税・住民税が減少し、実質的な手取りの減少は保険料増加額よりも小さくなります。

実質的な手取り減少を試算

厚生労働省の公式試算によると、最終段階(標準報酬月額75万円)の場合、社会保険料控除を考慮した実質的な手取り減少は月約6,100円(年約73,200円)とされています。

項目 金額(月) 金額(年)
保険料増加額(本人負担) 約9,100円 約109,200円
税負担の軽減(社会保険料控除の効果) ▲約3,000円 ▲約36,000円
実質的な手取り減少 約6,100円 約73,200円

※ 出典:厚生労働省の公式試算。実際の税負担軽減額は所得水準・税率により異なります。

✅ ポイント

「月9,100円増える」という数字は保険料の増加額です。税負担の軽減効果を差し引いた実質的な手取り減少は月約6,100円です。「増税」ではなく、社会保険料の適正化であるため、払い損になるわけでもありません(次章参照)。

保険料が増えると将来の年金も増える

標準報酬月額が上がれば将来の受給額も増える

厚生年金の受給額は「現役時代の平均標準報酬月額 × 加入期間」で計算されます。標準報酬月額の上限が上がると、高所得者はより多くの保険料を納めた分だけ、将来の年金額も増加します。

10年加入の場合の年金増加試算(厚労省公式)

条件 月の保険料増加 将来の年金増加(月額)
報酬月額75万円以上の状態が10年続いた場合 +約9,100円 +月約5,100円(年金課税考慮後は+約4,300円)

※ 出典:厚生労働省(一定の前提をおいて試算)

保険料を月9,100円多く支払う代わりに、老後の年金が月5,100円増える計算です。短期的には手取りが減りますが、長期的には受け取る年金が増えるという側面もあります。

💡 高所得者以外の方へ

報酬月額が現在65万円未満の方は、今回の上限引き上げによる保険料増加はありません。ただし、厚生年金制度全体の給付水準が上昇するため、間接的なメリットを受けることができます(厚労省)。

よくある質問

最初の引き上げは2027年9月からです。2027年4〜6月の報酬をもとに算定基礎届が提出され、同年9月から新しい標準報酬月額の等級(第33等級:68万円)が適用されます。2026年度(令和8年度)は現行のまま変更はありません。

賞与を除く報酬月額が66.5万円以上の会社員・役員が対象です。現在の標準報酬月額が第32等級(65万円)に達している方が該当します。厚生労働省の試算では、会社員全体の約7%(約303万人)が対象とされています。

報酬月額が65万円未満の方は、今回の上限引き上げによる保険料増加はありません。保険料率(18.3%)自体は変わらないため、現行の保険料が継続されます。

最終段階(2029年9月〜)で標準報酬月額が75万円になると、本人負担は現行比で月約9,100円(年約109,200円)増加します。ただし社会保険料控除の効果により、実質的な手取り減少は月約6,100円(年約73,200円)に緩和されます(厚労省試算)。

2026年度の厚生年金保険料率は18.3%(労使折半で各9.15%)で、2017年9月から変更はありません。2026年度中は上限も標準報酬月額第32等級(65万円)のまま据え置きです。

標準報酬月額の上限が上がることで、将来の老齢厚生年金(報酬比例部分)も増加します。厚労省の試算では、月収75万円以上の状態が10年続いた場合、将来の年金が月約5,100円増えるとされています(年金課税考慮後は月約4,300円増)。

今回の改正は厚生年金保険の標準報酬月額の上限に関するものです。健康保険の標準報酬月額は厚生年金とは別の等級体系で設定されており、今回の改正の対象には含まれていません。健康保険料は現行のまま変わりません。

在職老齢年金は、65歳以上で働きながら年金を受け取る際に「給与+年金額」が一定額を超えると年金が一部停止される制度です。標準報酬月額の上限が上がると高所得者の給与ベースが増え、支給停止基準に達しやすくなる可能性があります。ただし、2026年4月から支給停止の基準額が月51万円から月62万円へ引き上げられているため、影響は一定程度緩和されています。

まとめ

厚生年金保険料の値上げ:ポイント整理

  • いつから? 最初の引き上げは2027年9月。2026年度は変更なし。
  • 誰が? 賞与を除く報酬月額が66.5万円以上の会社員・役員(会社員全体の約7%・約303万人)。
  • いくら増える? 最終的に月最大9,100円増(2029年9月〜)。実質的な手取り減少は社会保険料控除効果で月約6,100円に。
  • 企業負担は? 労使折半のため企業も同額増加。対象者10人で年間約109万円の追加コスト。
  • デメリットだけ? 保険料増加に応じて将来の年金受給額も増加(10年加入で月約5,100円増の試算)。

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